withコロナの生き残り方を、
外食支援のプロに聞いてみた
第3回
株式会社スパイスワークスホールディングス
第3回目は「店舗営業」です。飲食店にとってど真ん中のテーマを取り上げます。緊急事態宣言が解除されて1ヵ月が経ちましたが、消費者にとっては「新しい生活様式に準じた外食」に対して不安が拭い切れないというのが実情です。
たとえ一度は来店してくれたとしても、店の新型コロナウイルス対策に不安を感じさせてしまうと再来店の可能性を失いかねません。お客様に感じていただく「安心・安全」が様変わりした時代のオペレーションを考えてみたいと思います。
今回お話しを伺った株式会社スパイスワークスホールディングス(以下、HD)は「うなぎの蒲の穂焼 牛タン 焼鳥 馬刺 いづも」などオリジナリティの高い飲食店を多数経営する外食企業でありプロデュースもしています。多様な立地、客層と触れ続けている同社が考える「新しい営業様式」を伺いました。
株式会社スパイスワークスホールディングス
肉をすしネタにした「肉寿司」やウナギを串焼きして焼き鳥感覚で味わう「うな串」など新たな価値を提案する業態を次々と生み出している。外食企業としてだけでなく、企画プロデュース、店舗デザインといった外食支援事業も展開し、大手外食企業を含め数多くの実績を誇る。
株式会社スパイスワークスHD
https://www.spice-works.co.jp/
対策は応援してくれるお客様のため
新型コロナウイルスの感染流行によって飲食店のあるべき営業の在り方が今までとは違ってくると感じました。以前は〝飲みニケーション〟をとる事を良しとされてましたが、今後は〝飲みに行く=外食する〟という行動が本人の意思だけでなく、当人を取り巻く会社やご家族といった身近な方々の「心配という規制」が伴うと思いました。
こうした状況にもかかわらず緊急事態宣言解除後にすぐにご来店くださるお客様は我々飲食店にとっては「応援者」です。私たちを応援してくださるお客様に肩身の狭い思いをさせてはいけない。そのためにお客様ご本人はもちろん、周りの方にも〝この飲食店で食事をすれば大丈夫〟と納得してもらうことが不可欠で、誰でもひと目で対策が確認できるよう「安心の見える化」をしていこう。そんな想いが当社の〝新型コロナウイルス対策〟の指針になっています。
客席数を減らさずにできることは何か?
当社は大衆酒場から専門性の高い料理を提供するダイニングまで30を超える業態を展開していますが、とりわけ大衆酒場業態は客単価を低く抑えているため、少し席数を減らすだけで赤字になってしまいます。
ですから、客席の間隔を広げられなくても安心して食事ができる対策づくりがポイントになりました。そこで対策の柱としたのが下記の4つです。
①ソーシャルウォールの設置
②換気
③店舗のコロナウイス感染防止ガイドラインPOPの貼付
④スタッフが気を付けているという姿勢
これら対策のベースは「新しい生活様式」に準じた営業スタイルとしています。とはいえ、私たちも〝手探り状態〟というのが本音。お客様の反応をみながら改善を重ねて、お客様に「安心して外食できる空間」を提供していく考えです。
①「ソーシャルウォール」のような間仕切りを設置することで、席の間隔が十分に離れていなくともお客様が無理(気に)することなく座ることができます。ソーシャルウォールは当社が新型コロナウイルス対策の一貫として開発したものを使っていますが、設置幅わずか3cmでテーブルを狭めることがありません。また奥行きはテーブルより15cmほどはみ出すように長めに設計し、飛沫の遮断能力を高めています。
②「換気」は安心の見える化という点で伝わりづらいところがあるものの、店の窓が開放されているかをチェックされている方は少なからずいらっしゃいます。一方で高度な機能を備えた換気設備や高額な噴霧器などが喧伝されていますが「安心の見える化」という観点から見て効果があるとは言いがたいと思っています。
③「コロナウイス感染防止ガイドラインPOP」は入口に掲示するだけで来店されるお客様はもちろん、店前を通り過ぎるお客様にも安心を見せることができるツールです。②換気やスタッフの健康管理といった見える化しづらい対策もアピールすることができます。
④「スタッフが気を付けているという姿勢」は後にオペレーションについてご紹介した「コロナ対策そのものを〝サービス〟と考える」でご説明します。
「信じられるのは他人より自分」という心理を生かす
入口周辺やトイレといった複数のお客様が利用する設備については単に「除菌スプレー」を置くのではなく「洗剤・スプレー固定設置設備」を設置。設備化することで店の衛生意識の高さとしてお客様に認知いただけると考えています。
またこうした場所については〝お客様が自ら拭ける〟仕様にする方が安心感を生みやすいですね。やはり他人より自分を信じている方が世の中の大半ですから。
コロナ対策そのものを〝サービス〟と考える
さて④「スタッフが気をつけているという姿勢」をどうオペレーションに落とし込んでいくかですが〝見知らぬ誰かが触れていない〟ことを見える化することが安心感につながるポイントだと考えます。たとえばB・C・Dの3つは以前テーブルに常備していたものですが、都度提供するスタイルに変更しました。スタッフの負荷にはなってしまいますが、そうした気遣いそのものが今は「サービス」として機能していると感じています。
A)ご入店時はお客様へ消毒スプレーでの手指消毒のお願い
B)メニュー表は使い捨て(大衆業態)
C)取り皿、カトラリー、常備薬味はご来店いただいてから用意
D)おしぼりの事前準備せず、ご来店ごとにお客様の前で袋から取り出して提供
E)マスク着用
F)スタッフは都度、出来る限り消毒
スタッフの作業負荷にも配慮する
新型コロナウイルス対策を講じることでスタッフは少なからぬ作業負荷が生じます。対策の数が多すぎたり、複雑だったりすると、作業を徹底できないスタッフが現れてしまう恐れがあるからです。どうすれば作業負荷を軽くできるかは、しっかり検証して改善していくべきです。
たとえば拭き取り作業であれば、拭きやすい素材や形状であったり、拭き取り面積を少なくする工夫であること。客席を仕切る間仕切りでいえば、紙シートを使って適宜取り替えるだけにすれば、拭き取りをするより作業負荷を軽くすることができます。そのシートを無地のままでは店の雰囲気にそぐわないのであれば、紙シートにメニュー表やキャンペーンPOPを印刷するなど活用法は考えられます。また以前はテーブル上に置いていたカトラリー類では、都度個別提供が難しいようであれば天板下に引き出しを設けて収納する方法もあります。
繰り返しになりますが当社の取り組みもまだ〝手探り状態〟であり、ベストとは考えていません。新型コロナウイルスの感染流行は第二波の懸念もあり、引き続き状況に応じて改善していくことが、店の「応援者」であるお客様の信頼に応えることになると考えています。
取材・写真・文 = さとう木誉(さとう きよし)
外食ライター。都内在住。繁盛店取材だけでなく経営マネジメントに関する取材活動を中心とする。「月刊食堂」「外食レストラン新聞」「外食図鑑」といった専門媒体の他、食品商社や外食コンサルタント等の宣伝企画にも携わる。好きな酒は熱燗。好きなツマミはガリ〆さば。