料飲店トレンドと繁盛店事例

2019年4月18日

地産地消の『その先』へ!
地域密着型ブルワリー

Vol.8は「地産地消の『その先』へ! 地域密着型ブルワリー」。1994年の酒税法改正をきっかけに誕生した、国内のクラフトビール産業。ここ10年で販売数量は増加の一途をたどり市場は脚光を浴びていますが、その一方で、数年で姿を消してしまうマイクロブルワリーも少なくありません。大手メーカーの本格参入により競争も激化する中で、小規模事業者がとるべき道とは。
国産ビール発祥の地とされる神奈川県横浜市で20年の実績を持つ、「横浜ビール」の取り組みをピックアップします。

横浜ビール 驛の食卓(神奈川県・関内)
驛の食卓外観

JR関内駅から徒歩約6分、みなとみらい21地区からもほど近い、馬車道エリアに店を構える「驛(うまや)の食卓」は、1999年4月開店。横浜市における地ビールの草分け的存在である「株式会社 横浜ビール」の醸造所に併設された、直営ブルワリーレストランだ。

うまやの食卓店内写真

重厚なチェコ製の仕込み窯2基と発酵貯酒タンク14基を合わせて、計16基のタンクが並ぶ醸造所では、チェコ・ドイツ・アメリカ・イギリスの4ヶ国のスタイルを汲むビールを基本に、手間を惜しまない伝統的製法で日々、クラフトビール造りがおこなわれている。これまでに開発した銘柄は50以上とのこと。

うまやの食卓店内写真 うまやの食卓店内写真

徹底した品質管理のもと、最高の鮮度を保った状態の “自家出しビール” を味わうことができるため、近隣で働くサラリーマンやOLを中心に、地元ファンで毎夜賑わいを見せている。

うまやの食卓店内写真

店内は1Fと2Fに分かれており、醸造所のある1Fは、一杯から気軽に楽しめるビアスタンドフロア。ガラス越しに醸造設備や醸造士の作業を眺められるほか、お土産やギフトにぴったりな、瓶ビールの物販コーナーなどを設置。

うまやの食卓店内写真 うまやの食卓店内写真 うまやの食卓店内写真 うまやの食卓店内写真

2Fは開放感のある広々としたレストランフロアで、約150席。30名~40名収容のテーブル個室も備えており、歓送迎会や懇親会など多彩なニーズに対応。

うまやの食卓店内写真 うまやの食卓店内写真 うまやの食卓店内写真 うまやの食卓店内写真

加えて、マイクにグランドピアノ、プロジェクターにスクリーンといった各種設備を充実させることで、結婚式の二次会のような大型パーティーの貸切会場としても支持を得たという。

客層の男女比は6:4で、40代~60代の利用率が高い。

うまやの食卓店内写真

なお、店内は全面禁煙で、テラス席のみ喫煙可能だ。

うまやの食卓店内写真

自家醸造ビールの中でも看板商品といえるのが、7種類の「レギュラービール」(Mサイズ:税込800円、Lサイズ:税込1,100円)


チェコスタイルの「ピルスナー」は、一般公募したビール職人同士で採点をしあう、ブルワーによるビール審査会「JAPAN BREWERS CUP(ジャパンブルワーズカップ)」において、2015年に1位を獲得した名品。

うまやの食卓店内写真

煮沸工程を3回繰り返すトリプルデコクション製法によって、モルトの旨味を最大限に引き出し、ザーツホップの強めの苦みとマッチする、コクのある味わいを生み出している。

うまやの食卓店内写真

南ドイツスタイルの「ヴァイツェン」も、日本地ビール協会が主催するビール鑑評会「ジャパン・アジア・ビアカップ(※現:アジア・ビアカップ)」で2012年に金賞に輝くなど、受賞歴多数。

うまやの食卓店内写真

小麦麦芽とヴァイツェン酵母による、苦みの少ないフルーティーな香りと味わいで、普段はビールを飲まない女性にも好評だ。

うまやの食卓店内写真

そして、同社が掲げる理念『モノではなく、人を伝える』を体現したレギュラービールが、この「道志の湧水仕込」。明治時代に取水を開始して以来、横浜市の水源地として100年以上もの深い繋がりがある、山梨県道志村の湧水を仕込み水に使用した商品である。

うまやの食卓店内写真

「ただビールを売るだけではなく、完成までの背景を伝えたい」との考え方を軸に、同商品には「命の源である水源地に想いを馳せ、自分たちの暮らす街を見つめ直してほしい」という想いを込めたそうだ。

うまやの食卓店内写真

季節限定のシーズナルビールも、同様のコンセプトで造られている商品ばかり。


毎年3月と9月に限定発売するフルーツビール「綱島桃エール」(Mサイズ:税込800円、Lサイズ:税込1,100円)は、港北区にある「綱島桃園」たった1軒でしか栽培されていない幻の品種「日月桃(じつげつとう)」を使用したもの。

うまやの食卓店内写真

横浜がかつて「東の神奈川」「西の岡山」と言われるほどの桃の名産地であったこと、戦後に桃栽培が廃れても伝統を守り続ける家があったことを知ってもらうべく、桃園とコラボレーションしたビールだという。

うまやの食卓料理写真

ビールだけにとどまらずフードメニューに至るまで、そのポリシーは徹底している。


2019年のイチ押し料理「岩塩プレートハーブグリル」(Mサイズ:税込2,000円、Lサイズ:税込3,800円)は、県産のブランド豚「やまゆりポーク」をシンプルにハーブで焼き上げた一品。

うまやの食卓料理写真 うまやの食卓料理写真 うまやの食卓料理写真

さらに、添えられている野菜や調味料なども地元産にこだわっており、食材に一切の妥協は見られない。

うまやの食卓料理写真

「ヴァイツェン」を使用した「ムール貝の横浜ビール蒸し」(税込1,000円)は、もちろん「横浜ビール」自身も地元生産者の一員であることをアピールする商品。

うまやの食卓料理写真

他にも、ビールパン、ビールピクルス、ビールドレッシングがけサラダ、ビール酵母入り焼売などなど多彩なラインナップで、自慢のビールを活かした料理を揃えている。

うまやの食卓店内写真

「ウチも最初は、流行に頼った形のありふれた地ビールレストランで、経営が苦しい時代もありました」と振り返るのは、同社専務取締役の竹内和人(たけうち・かずと)さん。


「地元の人に愛されて、誇りに思ってもらえるようなビール屋でありたい、と方向転換したのが11~12年ほど前。単純な地産地消に終始せず、さまざまな原材料を作っている生産者が、どんな場所で、どんな想いで、その食材を作っているのか、そこにどんな苦労と歴史があるのかを、消費者にキチンと伝えていくことが、私たちの役目ではないかと考え直したのです」。

うまやの食卓店内写真

また、スタッフが小麦農家の種まきや麦踏みを体験したり、果物農家の受粉作業を手伝ったりと、1軒1軒との絆を着実に深めていくうちに、「自分たちが誠実に仕事をしていると、誠実に仕事をしている優秀な生産者の方々と、自然と御縁を頂けるようになった」という。


レジ横で展示販売している、横浜唯一の蔵元による醤油も、創業160年を誇る老舗による胡麻油も、横浜で誕生した当時の味を復刻したケチャップも、そうして繋がった地元企業の手によるものだ。

うまやの食卓写真

2018年からは、食品廃棄物を堆肥に再生化して野菜栽培に利用し、収穫された野菜を自社で仕入れる、資源循環の取り組みもスタート。


「日本のクラフトビール市場は歴史が浅く、まだまだ自由度が高いので、新しいカルチャーを提案していける点も魅力。この横浜の地で、30年、50年、100年と歴史を積み上げていけるようなビール屋でありたい。それを成し遂げるためには、どれだけ地域に根差せるか、地元の人を大切にできるかが、何よりも大事だと思っています」と未来を見据えた。

DATA

店  名
横浜ビール 驛の食卓
住  所
神奈川県横浜市中区住吉町6-68-1
横浜関内地所ビル1階・2階
運  営
株式会社横浜ビール
電話番号
045-641-9901
営業時間
平日 11:30~15:00、18:00~23:00
(フードL.O 22:00、ドリンクL.O 22:30)
土  11:30~23:00
(フードL.O 22:00、ドリンクL.O 22:30)
日祝 11:30~21:00
(フードL.O 20:00、ドリンクL.O 20:30)
定 休 日
年末年始
坪数・席数
100坪・160席
禁煙・喫煙
全席禁煙(※テラス席のみ喫煙)
客 単 価
昼:1,000円
夜:3,000円~5,000円
開 業 日
1999年4月
公式サイト
http://www.umaya.com/

取材・写真・文 =
秋山シュン(シグナル・ロッソ。

秋山シュン写真

Webライター/ブロガー/役者/芸人。

食べ歩いた料飲店は4,000軒超。2007年に立ち上げた個人サイト「シグナル・ロッソ。」での記事紹介により、人気店となった料飲店は数知れず。サブカルチャーにも造詣が深く、2019年より秋葉原の事業組織「AKIBA観光協議会」公認ライターを務める。

ご注意

※掲載店について、カクヤスとの取引の有無は関係ありません。

※取材時点での情報です。

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