2020年8月16日
外食における新発想!
原価系料飲店
Vol.12は「外食における新発想! 原価系料飲店」。お酒や料理の「原価提供」を謳う料飲店が、業界内外で話題を集めています。入場料制にすることで先に店側の粗利を確保し、あとは原価で飲食してもらうという、デフレ時代らしい新業態。革新的であることは確かですが、“お値打ち感”を打ち出して客数を確保するビジネスモデルという点では、低価格をウリにした激安居酒屋などと差別化する工夫も必要です。
今回はオフィス街・港区芝で瞬く間に人気店となった、「ジョニーの原価酒場 三田・田町店」を取り上げます。
三田・田町店(東京・三田)
JR田町駅から徒歩2分ほど、第一京浜(国道15号線)沿いに建つ雑居ビルの3Fに店を構える「ジョニーの原価酒場 三田・田町店」は、2017年12月開店。駅を挟んで反対側の芝浦で和食居酒屋「虎てつ」を運営する外食企業「株式会社エッジ」が立ち上げた新ブランドで、入店料1,500円(税込)を支払えば、すべてのメニューが原価価格で楽しめるというシステムを採用する“原価酒場”だ。
“居酒屋以上、BAR未満” がコンセプトだというカジュアルな内装の店内は、ウッドデッキのテラス席を合わせて全85席。近隣で働くサラリーマンやOL、慶應義塾大学の三田キャンパスに通う大学生を中心に、高い人気を集めている。
春~夏はテラス席でBBQパーティーが可能で、大型テレビやマイク設備なども用意しているため、結婚式の二次会のような大人数宴会での貸し切り予約も多いという。
月間来店客数は約1,500人、客層の男女比は6:4。
注目のドリンクメニューは、ビール、日本酒、焼酎、ワイン、ウイスキー、カクテルまで幅広く、約180種類を提供。事前に原価だと分かっているとはいえ、やはりその価格設定には思わず目を疑う。
ウイスキーの定番銘柄「ブラックニッカ」を使用した「ブラックニッカハイボール」が、なんと1杯60円(税抜)。
焼酎150mlとホッピー1本がセットになった、ジョッキ2杯分以上の量の「ホッピーセット」が210円(税抜)。おかわりの「ホッピー中150ml」が105円(税抜)。
定番の生ビールはというと、「アサヒスーパードライ」が中ジョッキで150円(税込)。
東京都初の地ビールをベースにしたアサヒの本格クラフトビール「TOKYO隅田川ブルーイング」が全3種類、中ジョッキで258円(税抜)。
日本酒では、山口県「旭酒造」が誇る名酒「獺祭(だっさい) 純米大吟醸45」が、半合の90mlで185円(税抜)。
他にも、新潟県「諸橋酒造」の「越乃景虎 超辛口」が半合145円(税抜)、高知県「司牡丹酒造」の「司牡丹 船中八策」が半合185円(税抜)、山形県「楯の川酒造」の「楯野川 純米大吟醸 主流」が半合225円(税抜)などなど、全国各地の銘酒を揃えている。
文字通りの「原価価格」な安さだけでなく、けして安かろう悪かろうではない、“ワンランク上”な品揃えの豊富さにも驚かされる。
ちなみに「コロコロスパークリング」(税抜258円)という、スパークリングワインにアイスの実や冷凍フルーツをトッピングしたオリジナルドリンクも人気。スパークリングワインにはスペイン産「ラ・ロスカ カヴァ ブリュット」を使用しており、可愛らしい見た目と味わいで、女性ウケを狙った1杯だ。
“見た目”といえば、同店の料理はビジュアル映えするものばかり。日替わりを含めて約50種類のフードメニューの中でも1番の名物が、北海道産のいくらをこれでもか!とご飯にのせた「こぼれいくら丼」(税抜999円)。来店客の半数以上がオーダーするという。
「原価提供だからといって、お酒の質にも料理の質にも手は抜きません。とはいえ、低価格競争が激化する中では安さとクオリティだけでは1歩足りず、視覚的なインパクトも必要だと考えて、SNS映えを意識したメニューを開発しました」とは、店長の鉄谷康則(てつたに・やすのり)さん。
国産黒毛和牛A5ランクのランイチ(※ランプとイチボの部位)をじっくりと低温調理して旨味を閉じ込めた「ジョニーのローストビーフ」(税抜985円)も、開店時からの人気メニュー。その美味しさは言わずもがな、華やかなピンク色の断面が実にフォトジェニックである。
しかし、なんと言っても気になるのは採算面であるが、「居酒屋業態に限らず料飲店において、お客様1人につき1,500円を安定して回収できる、というのは大したこと。ざっくりとした計算でも、ひと月につき1,000人×1,500円が確実に利益として残るのだから、十分運営できますよね」と鉄谷さん。
「美味しいお酒と美味しい料理を安く楽しんでもらいたい、と考えて出した答えが“原価酒場”でした。働いている人間としても、本当に胸を張ってオススメしたいものを提供できることは何よりの喜びで、お客様とWin-Winの関係が築ける、両者が純粋に楽しめるお店を作りたいという想いが原点にあります」
また、「利益優先主義で変なものを出して、お客様に離れられるよりも、顧客満足度を高めて口コミのリピーターを増やす努力をするほうが、これからの時代の戦略としても合っているかなと。インターネットが発達している今の時代、場所が多少悪くても、いいお店というのが分かりさえすれば、自然と情報が出回って足を運んでくれる」とも。
「ですので、駅から近いけれども分かりにくい立地、こそが当店の強みを最大限に活かせる立地です。ギャップは心をつかみますから。もちろん開店当初は積極的に宣伝をしましたが、すごい勢いで常連の方が沢山ついてくれたので、現在はもう宣伝費にほとんどお金をかけていません」とのこと。
持ち込みを完全に自由、完全に無料にした点も、大きなポイントだろう。「極端な話、入店料だけを支払って何も頼まず、コンビニでお弁当とお酒を買ってきて店内で食べます、というスペース的な利用でも全然okなんです。結局は原価でのご注文ですから、お店としてはお酒を作る手間、料理を作る手間がはぶけ、なおかつお客様の満足度が上がるといった思想です」。
たとえば、誕生日会での利用でケーキの持ち込みがしたいとなった時に、客側としては当人の好きなパティスリーのケーキが用意できて、お店側としては作る手間がかからないので、まさにWin-Winというわけだ。
そのため人件費もかなり抑えられるそうで、ピーク時でもスタッフが4人いれば大抵は回るという。前述の生ビールにしても、自動販売機方式のセルフビールサーバーを設置することで、スタッフ側の負担を軽減するとともに、常に注ぎたての一杯を楽しめるようにした。
同時に、そうしてスタッフの手が空く時間が取れれば客との会話が生まれ、リピーターの獲得につながるアットホームな空間を作ることができる。開店から1年半以上が経過した今では、カウンターでスタッフとの談笑を楽しむ、おひとり様の利用客も少なくないそうだ。
さらに、11ブランドものクレジットカードと、9サービスもの電子マネー決済に対応している点も見逃せない。「予約の電話の時点で、クレカやスマホ決済アプリは使えますか?と聞かれることもある。特に海外からのお客様は、クレジットカードが使えるかどうかでお店選びをする方が多い。来年には東京オリンピックも開催されますし、キャッシュレスの時代になっていくのは確実ですから、だったら早い段階で導入してしまったほうがいい」と、先を見据えている。
2018年7月には2号店となる五反田店がオープンし、こちらも連日盛況の様子。今後は都内での多店舗展開を目指すという。
DATA
- 店 名
- ジョニーの原価酒場
三田・田町店 - 住 所
- 東京都港区芝5-32-9
ECS第5ビル3F - 運 営
- 株式会社エッジ
- 電話番号
- 03-6453-8119
- 営業時間
- 月~金 11:30~13:30、16:00~24:00
土・祝 16:00~24:00
祝前日 16:00~27:00 - 定 休 日
- 日曜
(※祝前日による変動あり) - 坪数・席数
- 32坪・85席
- 禁煙・喫煙
- 禁煙席なし
(※店内は電子タバコのみ可) - 客 単 価
- 昼:800円
夜:3,000円~3,500円 - 開 業 日
- 2017年12月
- 公式サイト
- http://www.washishabu-kotetsu.com/johnny/
取材・写真・文 =
秋山シュン(シグナル・ロッソ。)
Webライター/ブロガー/役者/芸人。
食べ歩いた料飲店は4,000軒超。2007年に立ち上げた個人サイト「シグナル・ロッソ。」での記事紹介により、人気店となった料飲店は数知れず。サブカルチャーにも造詣が深く、2019年より秋葉原の事業組織「AKIBA観光協議会」公認ライターを務める。
ご注意
※掲載店について、カクヤスとの取引の有無は関係ありません。
※取材時点での情報です。
※最新の営業状況は店舗にお尋ねください。