料飲店トレンドと繁盛店事例

2019年9月18日

繁盛バルの『リバーサイド(水辺)立地』活用事例

Vol.14は「繁盛バルの『リバーサイド(水辺)立地』活用事例」です。アルコールと一緒に一品料理やコースメニューを出すバルやビストロのような業態では、客の滞在時間が長く、料理の味やサービス同様に雰囲気作りが重要です。滞在中に感じた「素敵なお店だったね」という心象は女性客に強烈なインパクトを残し、口コミや次の来店動機に直結するため人気店はさまざまな工夫をしています。今回はリバーサイド(水辺)という特殊な立地を店の雰囲気作りに活用し、地域の繁盛店となっているバル2軒の事例を紹介します。


店が水辺にある、というだけで条件は圧倒的に有利ですが、都内では賃料も高く、リピーターを確保し、一定の売上を上げ続けなければ店の利益は出ません。またムードが演出しやすいディナータイムはともかく、ランチでも人を集めるための工夫が必要です。

事例1 
バルJIMMY茅場町(東京・茅場町)
茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」
茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」

リバーサイド活用事例1軒目は「バルJIMMY茅場町」。東京メトロ・茅場町駅を降りてすぐ、2018年3月に開業した商業ビル・GEMS(ジェムズ)の6階に入るワインバルだ。この一帯は日本を代表する老舗企業や、大手メーカーの本社などが集まる昔ながらのオフィス街。平日のランチ、ディナーともに需要は多いが、料飲店の数も多い激戦区でもある。

茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」 茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」
首都高速と日本橋川が交差するリバーサイドに立つGEMSビル

バルJIMMYが入るGEMSビルは、首都高速と日本橋川がちょうど交差する場所に立っている。6階までエレベーターで上がると、まさに店から見える風景はリバーサイドだ。夜、オフィスビルの窓の明かりにキラキラ流れる水面の光が重なると、東京にいることを忘れそうな気分になる。

アンチョビポテト 豚肩ロースのコンフィ
人気の「アンチョビポテト」(上)と「豚肩ロースのコンフィ」(下)

同店の売りはこの美しい水辺の風景と、フレンチ出身の謎の料理人「ジミーさん」ことシェフの太田康彦(おおた・やすひこ)さんが作る料理、そしてグラス450円、ボトル1,500円からのリーズナブルなワインだ。人気メニューは一度揚げたじゃがいもをソースで和えた「アンチョビポテト」(480円、税込)、自家製のにんじんドレッシングがあとを引く「ジミーサラダ」(420円、同)、鉄板メニューの「豚肩ロースのコンフィ」(880円、同/鶏肉のコンフィ750円もある)でいずれもワインや酒が進む。ワインは店のスタッフの手書きコメントが入った写真カードで選べるため、初心者でも注文しやすい。

茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」
フレンチ出身のシェフ、太田康彦さんことジミーさん。同店のキャラクターでもある。

バルJIMMYのコンセプトは「世界各国のワインと、気軽な洋風料理を楽しめる大衆バル」だが、それ以上のクォリティとコストパフォーマンスの良さを、一度来店したら感じるだろう。シェフを「ジミーさん」という店のキャラクターに仕立てているのも不思議なインパクトがあり、本当に実在する人なのか、厨房まで見に来る客もいるそうだ。

茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」 茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」
スタッフ手書きのワインリスト(上)と飲み放題の「茅場タイムズ」エリア(下)

同店がユニークなのは通常のバル利用ともう一つ、「茅場タイムズ」と称して1時間1,000円でワインやハイボールが飲み放題という「セルフ立ち飲み」エリアが店内にあることだ。日時を決めて誰かを誘って、というほどでなくふらっと軽く立ち寄りたい客にぴったりで、近隣の会社員によく利用されている。立ち飲み店は都内に多数あるが、リバーサイドの風景を楽しみつつ飲める、という店は少ないだろう。

茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」 茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」
ランチに付く「野菜ビュッフェ」が近隣の会社員に大好評

一方、ランチでは「野菜」を全面に打ち出している。メインはシェフ太田さんの特製ハンバーグや銘柄鶏のグリル、パスタなどが楽しめるが、セットでこだわり野菜とスープ、カレーの食べ放題ビュッフェが付いて来る。健康を気にする40代前後のビジネスマンとOLに大好評。スイスチャードやピンクカブ、コリンキーなど、カラフルでめずらしい野菜に目を奪われ、メインと合わせて非常に満足がある。

茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」
ランチ時には明るいリバーサイドの風景が楽しめる

毎日ランチを食べに来るビジネスマンもいるそうで、店長の佐藤淳(さとう・じゅん)さんいわく「飽きてしまうのではと心配になりつつも、ありがたいです。また僕は飲食業界で20年働いていますが、うちの店ではランチのお客さまが夜にも来てくださることが非常に多く、初めての経験で驚いています」


DATA

店  名
バルJIMMY茅場町
住  所
東京都中央区新川1-1-7 
GEMS茅場町 6F
運  営
メシプロ株式会社
電話番号
03-6262-8202
営業時間
月~金 ランチ11:00~15:00(L.O. 14:00)、
17:00~23:00(フードL.O. 22:00、ドリンクL.O. 22:30)
※金のみ 26:00(フードL.O. 25:00、ドリンクL.O. 25:30)
定 休 日
土・日曜(貸切パーティーの場合は対応)
坪数・席数
40坪・80席
禁煙・喫煙
分煙(店内に喫煙スペース有)
客 単 価
ランチ 1,000円/ディナー 3,800円
開 業 日
2018年3月
事例2 
ニホンバシ イチノイチノイチ(東京・日本橋)
ニホンバシ イチノイチノイチ
日本橋の橋のふもとにある人気店「ニホンバシ イチノイチノイチ」

リバーサイドの活用事例2軒目は「ニホンバシ イチノイチノイチ」。東京メトロ・日本橋駅を降りてすぐ、頭上を首都高速が通る「日本橋」のまさに橋のふもとにある。店の所在地をそのまま店名に使い、日本橋川の流れを間近に感じられるテラス席が大人気の店だ。

ニホンバシ イチノイチノイチ
日本酒・ワインと合わせて和食メニューを提供

同店の業態は和食バルで、日本酒やハイボール、ワインと合わせて「真ダコとバジルの唐揚げ」(680円、税別)、「塩辛バターのフライドポテト」(650円、同)、「雲丹(うに)グラタン」(1,480円、同)などオリジナルの創作和食メニューを提供する。上品だが酒と一緒にカジュアルにつまめる料理ばかりだ。

ニホンバシ イチノイチノイチ
国分とコラボした「缶つまお薦めセット」

さらに2018年6月からは同店の真隣に本社を構える食品卸企業「国分」とコラボした特別メニュー「缶つまお薦めセット」が好評だ。レストランで缶詰を出す、と言うといささかチープに聞こえるが、缶詰にひと手間かけたもので、美しい盛り付けと味わいに納得する。1日働いた後、これらのメニューと酒を川のほとりで味わったら、気分が上がりそうだ。

ニホンバシ イチノイチノイチ
店内に「缶つま」販売コーナーも設置し、お土産需要を狙う

店内では「缶つま」の商品各種も販売しており、満足した客がお土産に買って帰るケースも多いという。飲食と小売をワンストップで展開する好事例だろう。

茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」
日本橋川のリバーサイドを感じるテラス席

夜がムードたっぷりで他店との差別化がしやすい分、ランチでもきちんと集客できるよう工夫を凝らしている。「豚の西京焼き膳」(1,300円、税込)「鯵(あじ)フライ膳」(980円、同)、「鶏の竜田揚げ膳」(980円、同)などの和定食セットを提供。さらに日本橋界隈の料飲店に多い「相席」の誘導はせず、あえて客がゆったり過ごせるように工夫している。またランチの時間帯でも予約を受付けて、女性客のランチタイムでの誕生会やサプライズのお祝い利用も狙い、好評だ。

茅場町のビル6階に入る繁盛店「バルJIMMY茅場町」
「季節に関係なくテラス席は埋まります」と語る店長の上西健児さん

まさにリバーサイドにある同店のテラス席は、圧倒的な強みだ。店長の上西健児(うえにし・けんじ)さんによれば「外でものを食べたい」という客は多く、暑さ寒さに関係なく年間を通じてテラス席から埋まっていくという。ただし困るのは気温より悪天候時。雨や台風など物理的にテラス席が利用できず、店内の席も満席の場合はせっかく入った予約を断らざるを得ない。テラス席ならではの難しさもあるそうだ。


以上、リバーサイドの活用事例2軒を紹介したが、立地を生かした両店の工夫はいかがだっただろうか。ちなみに今回の取材時は、特に宴会シーズンでもない月曜夜だったが両店とも満席だった。近年では国土交通省による「ミズベリング・プロジェクト」(民間と行政が協力し、日本の水辺環境を再活性化する)なども始まっており、リバーサイドは注目のキーワードになっている。一度訪れてみては。

DATA

店  名
ニホンバシ イチノイチノイチ
住  所
東京都中央区日本橋1-1-1
国分ビルディング 1F
運  営
株式会社ゼットン
電話番号
03-3516-3111
営業時間
月~金 ランチ11:00~14:00(L.O.13:30)
17:00~23:30
土・日・祝 11:00~15:00(L.O.15:00)
17:00~22:30
※全日バーエリア限定のハッピーアワー17:00~19:00も営業
定 休 日
なし
坪数・席数
59坪・120席
禁煙・喫煙
分煙(店内に喫煙スペース有)
客 単 価
ランチ 1,000円/ディナー 5,500円
開 業 日
2008年6月

取材・写真・文 = 浅野 陽子

フードライター。
食限定の取材歴20年、『dancyu』『日経MJ』『AERA』『おとなの週末』『ELLE a table(現・ELLE gourmet)』『近代食堂』など食の専門誌を中心に、レストランや料理人への取材記事を多数執筆、テレビのグルメ番組への出演実績もある。『NIKKEI STYLE』(日本経済新聞社)の人気コーナー『話題のこの店この味』で毎月コラム連載中。

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