2020年3月17日
神楽坂 豊富な経験と飽くなき探究心から生まれるこだわりのおでん店
神楽坂。落ち着いた雰囲気の坂道を中心に、大小様々な個性的な店舗が軒を連ねる。今や都内の食通が注目する大人のグルメスポットとなったこの街に、夜な夜な人で溢れかえる一件のおでん店がある。
それが『神楽坂 ちょうちん』。
(東京・神楽坂)
店主の有本さん。
『ちょうちん』は人を楽しませることが大好きなご主人の心意気が詰まった店だ。
女性も入りやすい温かみのある店内。
人気の刺身盛り合わせには、毎朝豊洲市場で仕入れた新鮮な食材が並ぶ。
この日の盛り合わせは、写真右から『とろたく』・『生タコの炙り』・『阿波牛(イチボ)のたたき』。
※価格は時期により変動。
とろたくは上質なマグロの旨味とたくあんの塩気が絶妙。醤油をつけなくても十分に楽しめる。
阿波牛(イチボ)のたたき。甘みのある油が口でとろけ出す。
「18の時に徳島から東京に出てきて、様々な飲食店で修行をさせてもらいました」
この店を開いたきかっけは、友人から「飲食店をやりたいから手伝ってくれ」と頼まれたから。
「当時、神楽坂には気軽に入りやすい店が少なかったので、誰でも気軽に入りやすいおでん屋にしようと決めました」
ここにしかない美味しさを提供する。メニューへのこだわり
看板メニューのおでん。
鳥の出汁を加えることにより、他店にはない、しっかりと重みのある深い味わいを作りだした。
「卵は三日間煮込むんです。そうすると黄身までしっとりと食べられます」
店内に貼られたメニュー。
メニューの説明時には、お客様に「美味しそう!」と思ってもらえるような伝え方を意識しているという有本さん。
「例えば、産地はもちろん、素材の味を味わってほしいから「最初は醤油をつけないで召し上がって見てください」など、そのメニューを一番美味しい状態で味わってもらえるよう、食べ方までお伝えするようにしてます」
お通しの『菜の花のおひたし』(写真中央)もそんなメニューの一つ。
「菜の花の香りや苦味を味わって欲しいから、あえて最初は何も付けずに食べて欲しいとお伝えしてます」
「おでん以外では、『帆立の磯焼き』も人気です。身の厚い帆立を網で焼き、醤油を絡め海苔で巻いた焼き物メニューです。「帆立の磯辺焼きが参りますので両手を開けてお待ち下さい」と声をかけ、カウンター越し一人一人に手渡しで提供しています。
海苔を巻いた帆立は焼きたての熱々で、口の中にほおばると海苔の香り醤油の香ばしさが帆立と絡んでなんとも言えない旨さなんですよ。他店ではなかなかないメニューですから、お客様からも「こんなの食べたことがないよ」と驚かれます。横のお客様も「今のはなんですか?」と釘付けになって、いつの間にかカウンターの皆さんがほおばっている、そんな名物メニューです。』
「ドリンクは、『キリンラガービール』が一番人気ですね。お客様の七割以上が注文されます」
ビールらしいしっかりとした苦味が特徴のキリンラガービール。
「自分自身、最初に「苦い!けど美味い!」と感じたのがキリンラガービールだったんですよ。そんなビールについての原体験をさせてくれた商品だったのも、店に置いている理由の一つですね」
人気の『島レモンサワー』。
「もとは中高年層がターゲットのお店なので、定番商品のサワー系は少し高めの価格に、逆にプレミアム感のある商品は手頃な価格設定にしています。そうすることで、いい商品が安く飲める、と 店への信頼感が得られるんです」
こちらの日本酒『一ノ蔵』も人気ドリンクのひとつ。
「ドリンクと料理は、どちらがメインということはなく、相乗効果で楽しんでもらえたらと思っています」
「うちは豊富なメニュー数も自慢で、フードは約90種類。ドリンクは約100種類をご用意しています。「どれも美味しそうで何を選べばいいか迷う!」という嬉しいお声もよくいただきます」
「フードのメニューに関しては、おでんというベースがありながらも、それに捉われない意外性も大切だと考えています。例えばビーフシチュー。おでん屋では意外と思われるかもしれませんが、あえてそのインパクトを狙っているんです。
ただ、インパクトだけではなく、しっかりとしたクオリティを維持する事も大事。私はもともと洋食店やホテル、無国籍料理といった、幅広い店舗での勤務経験があります。ビーフシチューもそこでの経験があったから出せたメニュー。ただ奇をてらうだけではなく、しっかりと経験に裏打ちされているから出せるメニューなんです」
「あとは、料理の季節感にもこだわっていますね。日本には四季がありますから、それぞれの季節で、その時しか食べられない旬のものがある。例えば、夏には殻から開けたばかりのウニを提供、冬にはおでん屋のアイデンティティーを活かしておでん仕立てにした白子などを提供しています」
サービスの真髄は、細部に宿る
おでん屋には珍しく、店内の客のうち、九割が女性の時もあるという。
その秘訣を聞いて見た。
「秘訣は、ズバリ “トイレ“ ですね。ぜひ中に入ってみて下さい」
微笑むご主人に促されトイレに入ってみると、広々とした個室の中にスタイリッシュな黒の便座。
さらに、蓋を開けると、優雅な音楽が流れ出した。
「うちは店舗のスペースが狭いので、トイレの個室が一番広いスペースなんですよ。そこで、女性のお客様にほっと安心してもらいたいと考えたんです。
女性は、音にも敏感でしょう。人口の流水音はよく聞きますが、あれはいかにも取ってつけたような音でイマイチだと思ったんです。そこで、音楽が流れるこの便座を見つけて採用しました。音楽が流れるなんて、粋じゃないですか。しかもこの音楽、日替わりなんですよ。小さな事かもしれないけど、お客様には来るたびに楽しくなってもらいたい、そう考えているんです」
まさにサービス精神旺盛な店主ならではの心配り。細やかな心遣いに、女性客のファンができるのも頷ける。
トイレの張り紙。地元徳島への食材愛も忘れない。
「バブルの頃に勤めていたレストランでは、結婚式の二次会を請け負う中でパーティープランやイベントのプランニングをしていました。どんな事をすればお客様は驚き喜んでくれるだろう。色々なアイデアを巡らせながら自由にサービスを考えていった。バブルの追い風もあり、様々な実験ができました。その経験が、今の店づくりにとても活きていると感じますね」
年商約7,600万円。唯一無二の繁盛店の秘訣
集客に関しては、ホームページを作成しなかったことで、食べログの検索件数が増えたことは良かったと思いますね。開業当時の神楽坂は、決して今のような活気がある街とは言えませんでした。土日も人がまばらで、本当にひっそりとした街だったんです。そんな中で、毎回新しいメニューを作り、一度来たお客様が次に来てくれた時に、常に新しいメニューと出会える楽しいお店にしようと考えたんです。20年前に焼酎ブームが来た時には、16種類の焼酎をカウンターに置いていました。当時それだけの焼酎を揃えているお店はあまりありませんでしたから、話題になりました。お客さまには神楽坂近辺の出版社の方も多く、皆様情報通ですから口コミが次第に評判を呼んで、お客さまの数は徐々に増えていきました。
近年では席の二時間制を導入して、全体の回転率も意識しています。この回転率の良さも売上に繋がった大きな要因だと思いますね。
結果的には、1日の最高売上げが50万円を超えるなど個人店ではなかなか到達できない売上を達成できていると思います。何事も地道に続けることが大事。一度来たお客様がどうしたらまた来てくれるのか、その事を地道に考え続けることが繁盛店への近道だと思います。お客様に小さな楽しい体験を沢山してもらう。諦めず、小さな工夫を続けて欲しいですね。
「これからも、時代を追いすぎず、かといって流行りを否定せず、新しい良いものは取り入れていきたいと思っています。ここにしかない美味しいものを楽しんでもらう。その精神を貫いて、元気に商売を続けていきたいですね」
ご主人のバイタリティー溢れる笑顔が印象的だった。小さな楽しさを目一杯詰め込んで、訪れる人を笑顔にする。それが『ちょうちん』が繁盛店であり続けるための、一番の秘訣なのかもしれない。
DATA
- 店 名
- ちょうちん
- 住 所
- 〒162-0825 新宿区神楽坂3-1 川端ビル1F
- 運 営
- 有限会社有本
- 電話番号
- 03-3268-5253
- 営業時間
- 平日(月~金)17:00~23:30
土曜日16:30~23:00 - 定 休 日
- 日曜祝日・月曜隔週
- 坪数・席数
- 14坪・28席
- 禁煙・喫煙
- 喫煙可(2020年4月より禁煙)
- 客 単 価
- 4,500~5,000円
- 開 業 日
- 1991年3月末
- 公式サイト
- なし 参考サイト:食べログ
取材・写真・文 = 天木 麻乃
天木 麻乃(あまき まの)
フリーライター・イラストレーター。都内在住。
徳島県出身。グルメと猫とエンタメが好き。
天木麻乃 オフィシャルウェブサイト
ご注意
※掲載店について、カクヤスとの取引の有無は関係ありません。
※取材時点での情報です。
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