withコロナの生き残り方を、
外食支援のプロに聞いてみた
第1回
株式会社ROI
代表取締役社長 益子雄児氏
第1回目にお話しを伺ったのは一般消費者の声を店舗改善につなげる覆面調査サービス「ファンくる」を展開する(株)ROIの益子雄児社長です。同社では5月15日と6月8日に1,000人規模の意識調査を実施し、6月からは13のウイルス対策を調査項目に追加しています。120万人を超えるモニター会員と1万店を超える調査実績から見たwithコロナ期の顧客心理の今と対策について聞きました。
益子雄児 プロフィール
2008年に株式会社ROIに入社。覆面調査サービス「ファンくる」事業責任者を経て2017年に代表取締役社長に就任。趣味は飲み歩きでその数は年間800軒を超える。座右の銘は「かけた情けは水に流し、受けた恩は石に刻む」。
株式会社 ROI(アールオーアイ)
覆面調査サービス「ファンくる」を開発・運営する。従来の覆面調査より低コストとスピードを実現し、個人店からチェーンまで1千社、1万店を超える外食企業が活用している。2017年からは従業員満足度調査を手掛ける「ファンくるES」をスタート。すでに200社超が導入している。
株式会社ROI https://www.j-roi.com/
ファンくる https://www.fancrew.jp/
お客様との接触可能性をできるだけ減らそう
当社では緊急事態宣言中の5月15日(https://www.j-roi.com/news/research/chosa20-05.html)、解除後の6月8日(https://www.j-roi.com/news/research/chosa20-06.html)に同様の質問内容で新型コロナウイルスに対する意識調査を実施しました。
5月15日 | 6月8日 | 差 | |
---|---|---|---|
おしぼりの手渡し | 18% | 17% | ‐1 |
メニューブックの手渡し | 4% | 4% | 0 |
ドリンクの手渡し | 2% | 2% | 0 |
料理の取り分け | 6% | 7% | +1 |
卓上での最終調理(ドレッシングをかける等) | 8% | 8% | 0 |
席案内時の座席を引くなどの対応 | 4% | 4% | 0 |
注文・商品提供時のスタッフからの説明 | 7% | 8% | +1 |
会計時の手渡しなどのやり取り | 11% | 9% | ‐2 |
ブッフェやセルフサービス | 34% | 34% | 0 |
その他 | 7% | 7% | 0 |
ファンくる(株式会社ROI)調べ
ご存じのとおりウイルス対策の柱は「飛沫」と「接触」をいかに防ぐかです。注目していただきたいのが「今後お店になくして欲しい対応」。ブッフェやセルフサービスが34%に次いで高かったのが「おしぼりの手渡し」(18%)「会計時の手渡し等のやり取り」(11%)でした。これは緊急事態宣言中の5月15日と解除後の6月8日に同様の調査をしましたが、ほぼ変わっていませんでした。
5月15日 | 6月8日 | 差 | |
---|---|---|---|
おしぼり | 29% | 32% | +3 |
箸 | 49% | 44% | ‐5 |
皿 | 2% | 1% | ‐1 |
メニューブック | 5% | 7% | +2 |
ランチョンマット(テーブルクロス) | 4% | 6% | +2 |
布ナプキン | 4% | 5% | +1 |
その他 | 6% | 5% | ‐1 |
ファンくる(株式会社ROI)調べ
おしぼりや箸は「使い捨てにしてほしい備品」でそれぞれ32%、44%と高い割合を占めています。こうした備品類は卓上に置かず、都度個別提供していくことが安心感アップにつながると考えます。
入店前の不安を取り除こう
お客様にとってお店を利用するかどうか判断する際「店がどんな対策をしているのか」を知りたいという心理が強くあります。とりわけ女性客、シニア、子連れファミリー、会食といった客層ニーズが大部分を占める業態は対策を強化するだけでなく実施していることを「お客様に見せる対策」が欠かせません。
入口付近の目立つ場所に対策実施を示したPOPを掲示することは欠かせない施策です。
カクヤス navi ONLINEでは「新型コロナ対策ポスターPOP特集」で28のデザインバリエーションで用意。無料ダウンロードできます。
また、ぐるなび、食べログといったグルメサイト、LINEやフェイスブックなどの公式SNSにもしっかり明記することも忘れてはいけません。
実施してる対策は多いほうがいい。とりわけスタッフの手洗い消毒、うがい、検温などはお客様に目に見えない対策ですからPOPでアピールしないと伝わりません。また前項で解説したような接触を減らすためのオペレーションも書いておくと安心して入店できます。対策項目の書き方に悩むようでしたら当社が調査項目に採用したものを参考にするといいでしょう。
気の利いた接客ができなくなった!?
ウイルス対策で悩ましいのが「これまでお客さまの満足度につながっていた接客を封じないといけないこと」です。
たとえば従業員の笑顔はいちばん店の印象アップに欠かせないもの。しかし今はマスク着用によって笑顔を見せられなくなってしまいました。同様にスタッフの元気な声も飛沫感染を恐れるお客様がいらっしゃいますから難しい状況です。
だからといってそうした接客を止めてしまうだけですと、スタッフはこれまでの接客スタイルを否定されたと感じモチベーションを下げてしまいます。店長さんはぜひアルバイトを含めた全員でアイデアを出し合い「新しい生活様式」に適した接客スタイルづくりに取り組んでいただきたいですね。
顧客心理の変化に敏感になろう
緊急事態宣言が開けたばかりの今は外食店を利用するお客様も〝恐る恐る〟利用しています。今はお客様に安心して利用してもらうことを最優先にすべき時期であることは間違いありません。ただ先ほどお見せした「お店の新型コロナウイルス対策を、どのくらい重視しますか?」という設問では、5月15日調査と6月8日のものを比較すると消費者がわずかに警戒のガードを下げはじめていることがうかがえます。
感染症が落ち着いてくるとお客様の警戒心も緩み、以前のように楽しさを求めるようになってくるでしょう。こうした顧客心理の変化に気づかずに硬直的にソーシャルディスタンスを守った接客をしつづけて「物足りない店」と評価されてしまっては機会損失になりかねません。好感度を高める〝攻め〟の接客ができるようになるタイミングを見逃さないようにしましょう。
当社がウイルス対策を調査項目に採用することで、対策の実施がお店の評価に直結しているということに加えて「お客様の警戒心が緩むシグナル」をお店にお知らせできるのではないかとも考えています。
宴会需要は戻らない、小グループ利用獲得がカギに
今回のウイルス対策で講じたオペレーションの多くは、懸念されている第二波だけでなくインフルエンザやノロウイルスといった既存の感染症が流行した場合でも有効になると思います。対策を一時的なものと考えずにルールとして落とし込んでおくべきでしょう。
もうひとつは年末年始や春の宴会はしばらく期待できません。そのぶん少人数の飲み会を多く獲得できるかどうかが売上げ確保のカギになります。少人数客は顧客満足度のポイントが宴会客とは異なり、接客の重要性が大きいんですね。先ほども申し上げましたが、新しい生活様式に合わせた好感度を高める接客スタイルを生んだお店が高い支持を得られるようになると思います。
取材・写真・文 = さとう木誉(さとう きよし)
外食ライター。都内在住。繁盛店取材だけでなく経営マネジメントに関する取材活動を中心とする。「月刊食堂」「外食レストラン新聞」「外食図鑑」といった専門媒体の他、食品商社や外食コンサルタント等の宣伝企画にも携わる。好きな酒は熱燗。好きなツマミはガリ〆さば。